ぼくはリクルートと銀行で計8年間、営業職として仕事をしてきました。
多くの「スーパー営業マン」と呼ばれる人に出会ってきましたが、銀行時代の上司を超える人はいません。
銀行時代の上司であるMさんが凄いところは、銀行の中だけで成績を残せるのではなく、どの環境にいっても通用するスキルを持っているところです。
事実としてMさんは既に銀行を退職して、コンサルに転職してすぐに昇進して素晴らしいポジションにいます。。年収も3,000万円近くあるとか・・・
どこへいっても活躍できる人であり、だからこそ銀行でも圧倒的な存在感を放っていました。
ぼくの人生にも大きな影響を与えた、Mさんの思考法からビジネスにおいて重要な考え方をご紹介したいと思います!
銀行内で仕事が出来ると評判のMさんがやってくる

Mさんがうちの支店に来るらしいよ
ぼくのいた銀行は全従業員で約9,000名。有名な支店長であれば話は別ですが、一介の営業マンが全国で名が知られるというケースは稀です。
しかし、自分が配属された支店(以下、A支店)にやってくるMさんは、異動してくる前から、その話題でもちきりになるほどの名前が通った営業のスーパースターでした。
当時の支店は法人営業が8名。
いわゆるベテランと呼ばれる人が4名と、若手が4名という構成。そして、若手とベテランが2人1組になって、営業成績を争う方法を行なっていました。
当時の自分は、年齢も経験も1番下。ですので、ペア間の実力が拮抗するように、スーパー営業マンのMさんと、ぼくがペアになることは必然でした。
社会人になってそろそろ10年、銀行をやめて数年間が経とうとしている今でもこの上司との出会いが自分のビジネス人生に大きく影響を与えるなんて、このときは思いもよりませんでした。
会社に全くいないMさん
法人営業マンは8時に会社に行き、9時になったら外回りに出て、昼には一度会社に戻る。
午後も外回りに出て、18時には会社に戻ってくるということが日々の営業のルーティーンでした
しかし、Mさんは、8時40分くらいに出社後にすぐに外出し、19時くらいに会社に帰ってきて少し事務作業をして誰よりも早くに退社する、という明らかに他の人と違う行動をしていました。
当時、何も知識のない自分にとって、ペアの先輩社員が会社にいないことで質問や相談できないのは本当に大変でした。

成績残すとルールを守らないで何でもやっていいと思ってるのかな?
なんてことも、ぼくは心の奥底で思っていました。
質問や相談もできないので、

Mさんの外出中についていって道中で聞くしかない!
と思い、Mさんの営業について行くことにしました。
そこで、まずはMさんに日々の行動について聞いてみました。

なぜ、そんなに会社にいないんですか?他の人はちゃんとルール守ってますよ

会社でやる仕事って何のためにしているの?
考えてみると、会社にいる仕事は社内向けの仕事が多いということに気づきました。社内の報告書、上司を説得するための資料作成、回覧資料などなど銀行は特に社内事務作業が多いのです。

俺らは営業だから、売上を上げることにつながらない作業はやらないべき
社内業務の中でも唯一、社外に対して行う事務業務とも言えるのが稟議作業です。
「稟議作業」とは
・会社にお金を貸したい」というための文書の作成のこと
・稟議が承認されないと貸付が出来ない
・営業数字を上げるために必須の作業
Mさんは稟議作業すら自分でやらないようにしていました。社内にいる融資課の人に稟議作業を外注し、自分はお客さんとの接点に時間を使っていたのです。

営業は数字を上げるのが仕事。数字が上がるのはお客さんからOKをもらう時だけ。
これがMさんの口癖でした。
自分は何のためにいるのか?そのためには何をしなくてはいけないのか?ということを常識やルールに捉われず、考えて行動することの重要性をMさんから学びました。
会社で周囲の人が無意識に行なっていたりすると疑問を持たなくなり、いつしか当たり前のことが出来なくなっていくもんだなぁと思ったのを今でも覚えています。
銀行での仕事の仕方が完全に他と異なるMさん
Mさんの真髄を見たのは、とある法人に貸し付けを行う時でした。
銀行の法人営業の成績は『いくら貸したか?』が指標です。
銀行の営業の難しさはどんなにお客さんを口説いても『貸しちゃいけない先』が多々あるところです。
貸し付けをするためには、貸出したい会社の財務評価が基準になります。財務評価をもとに、会社に貸し付けるための稟議が承認され、さらにお客さんからの同意が得られると、はじめて融資が実行されるというフローになっています。
過去の返済実績やデジタルに判定される財務評価から、ある程度貸せる会社とそうでない会社が区別されます。
ですので、法人営業として貸付を行うのは社内を説得するか?社外を説得するか?のどちらかです。
- お金はいらないけど、財務評価が高い会社を説得する
- お金がいる会社に貸すために社内を説得する
一般的な銀行員は、①の『お客さんに対して営業する』ということが多いです。なぜなら、社外を説得する方が簡単だからです。財務評価が低い会社に、社内営業をして貸し付けることはとても難しいのです。
しかし、Mさんは圧倒的に②の社内を説得して貸付を行う案件が多かったのです。
社内の人が「そんな会社潰れるだろう」と思っていた会社に貸し付けを決めていくのでした。他の営業マンがやりたがらないような案件に取り組み、数字を積み重ねていく。
前述の通り、社内で『貸し付けが難しい』と判断されるときは、決算書の貸借対照表と損益計算書のスコアが良くなかったときです。
しかし、銀行の財務スコアリングは仕組み化されており、実際にその数値が何を示すのか?なぜその数値が低いとだめなのか?を理解して説明できる人は少なかったのです。
財務スコアリングが悪い会社に融資を実行した時の話
ある日、Mさんは昔ながらの婦人服店に新規で貸し付けを行おうとしていました。
Mさんのいつもの案件らしく、その法人の財務評価は到底貸し付けを行えるようなスコアは出ていませんでした。特に『棚卸し資産』の数字が過大であり、融資を実行するのは危険と判断されていたのです。
洋服店のような小売店は在庫を持ちすぎていたり、前年と同じ金額の在庫があると、その在庫は資産性がないとみなされ、財務スコアリングが低くなります。
その会社は業界平均の5倍以上も在庫を持っており、それによって借入も増大していました。銀行として、これ以上の貸し付けは危険という状況にも関わらず、Mさんは新規の銀行として貸し付けを行おうと試みていました。
Mさんがこの案件を持ってきた時、他の銀行がやらないのに、新規取引として自分たちは絶対やりたくない、というのが当時のうちの銀行のスタンスでした。

余裕で貸せる。いい会社だよな
社内で最初に否定的な反応だったにも関わらず、ぼくの横の席でMさんがポツリとそう言ってたのを今でも覚えています。
そこでぼくは自分の勉強も兼ねて、Mさんに質問をぶつけてみました。

この会社、在庫が多すぎて貸付を行える財務評価ではないですよ

なんで在庫が多いと財務が弱いと判断されるの?

売れない商品は資産性がないからじゃないんですか?

なんで在庫が多いことが、売れないことってなるの?

だって、前年と同じ商品で同じ金額が決算書にのってたら1年間売れてないことじゃないですか?それってもう売れないですよね?

なんで売れない=資産性がないってなるの?

いやだって、服はシーズンや流行があるので、時間が経てば経つほど価値が下がっていくので・・

どんな服でも?

うーん、たぶん・・・・・・・・

そんなことないだろ。この会社が扱ってる洋服って何か知ってるか?

え、知らないです。

ここは高級毛皮を扱ってるんだよ。

しかも、ここで扱っている高級毛皮は確かに時間が経つと痛んだりはするが、それ以上に希少性が高いので、ほとんど値崩れしない。現にこの前、仕入れてから6年経った毛皮を某有名人が購入していったよ。
ぼくは決算書の数字という表面的なものしか見ずに、数字が意味するものを理解していなかったことを痛感しました。
そして、洋服は時間が経つにつれ、価値が下がるものという固定観念から、その会社の判断をしてしまっていたことを恥じました。
その後、よくよく調べるとスノーレオパード(雪豹)やウンピョウ(雲豹)という動物の毛皮は非常に希少で、絶滅危惧種と呼ばれています。
他にもカラクールラム、レオパードといった毛皮は価値は高く、値下がりもしづらいとのことでした。
この会社は、集客に力を入れておらず、その価値が分かる購入者と出会うのに時間がかかったり、希少な毛皮を仕入れることに躊躇しないため、結果的に在庫が多くなっているという個別事情があったのです。
結果、Mさんはその在庫のもつ意味や、その妥当性を証明することで、銀行内の機械的な判断上では否決だった案件にも関わらず、社内の承認を取ってしまいました。
銀行員の成長は仕事内容ではなく、周囲の人
ぼくは銀行を辞めて数年経つ今でも、この案件を鮮明に覚えています。
他にも、Mさんの仕事に対する考え方や取り組み姿勢からたくさんのことを学びました。
人との違いを出すには、より深い本質理解と、その状況を変えようとする熱意、そして実行力が大切だと気付かされました。
Mさんから学んだことは、銀行を離れて数年経つ今の自分にも大きな影響を与えています。
『1つの会社でしか働けない人になるな』
これはMさんの背中を見て、勝手にぼくが解釈した言葉です。
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