リクルートの面接って独特で何を伝えたらいいかわからない
自分には大した強みがない
という相談を多くの転職志望者から何回も何回も聞きました。
今回ぼくが相談を受けた転職者の方も、全く同じ悩みを持っていました。自分には誇れるような実績もないし、大した努力をした経験もない….
そんな彼女が自己分析と伝え方をしっかり行ったことで、見事に合格した事例をご紹介します。
今回の記事を通してお伝えしたいことは、自分の価値観で、ものごとを決めつけずに発想を転換することで強みが見えてくる、というものです。
面接対策の小手先のノウハウでもなく、転職活動を通して自己分析をしっかりと行い、「自分自身を知ること」が結果的に一番の近道なのだと思います。
会った第一印象は「正直、この人転職できない」
今回のご相談者は大学卒の24歳の社会人2年目の女性。大学は某有名4大(MARCH相当)で、学生時代には部活でチアリーディングに没頭。
大学を卒業した後に、某有名メーカーで営業を1年間以上やっており、一定の成績を残していました。このメーカーは、ビジネスマンであれば誰でも知っている程の有名な企業であり、会社のブランドもさることながら、営業部隊の営業力の高さによって名を轟かせている企業です。
一言で「営業力が高い」といっても、色々なスタイルがありますが、この会社は、組織として決められた KPI(電話回数、商談回数など)が厳しく設定されており、いかに高速にPDCAを回すか?が求められる営業スタイルの企業でした。
つまり、個人の工夫よりもルーティンワークのスピードが求められる営業です。
多くの若手がその厳しさに離脱していく中、2年目で一定の成果を残していた彼女。決してゴリゴリ営業するタイプに見えず、外見も中身もふわふわした可愛らしい印象でした。
正直、ぼくの心の中は

この子が本当にこの企業でやっていけているのかな…
と思っていました。
正直、転職の相談を最初に受けた時は

厳しいかも
というのが、彼女の第一印象でした。
なぜなら、彼女の言葉から出てくるのは「長い時間働きたくない」「特に自分の強みはない」「やりたいことはない」「これまで頑張った経験がない」というネガティブな言葉ばかり出てきたからです。
唯一、ポジティブな転職理由として挙げられたのが、営業組織として厳しすぎるあまり、各営業マンがKPIを追い続け、KPI達成が目的化してしまっており、「お客さんのためにならない営業がいやだ!」というものでした。
「営業は嫌いではないので、お客さんに向き合って提案するコンサルティング的な営業をしたい」という考えには好感触だったのですが、自分自身のコアとなる価値観を全く言語化できていなかったり、転職する理由が不明確であったため、転職難易度はかなり高いのでは?と思ったのを今でも覚えています。
女性として働きやすい職場にいくか、働きやすい状態に自分をしておくか
今の職場の、長時間勤務や、厳しい営業環境を長年続けることは、女性の自分にとって難しいと考えており、女性として働きやすい環境に身を置きたいというのも転職理由の1つでした。
彼女は転職先に求めるものとして、最初は

女性が働きやすい職場に行きたい!
と、強く話していました。
ただ、そこで考えなくてはいけないのは、会社の制度として働きやすいのか?それとも、どこでも働ける状態の自分にしておくのか?ということです。
この部分に関して一緒に考え、深掘りして彼女にヒアリングしていくと、後者であることがわかりました。
挫折経験を聞かれると答えられないことが悩み
彼女は、大学4年生の就職活動の時にも苦労し、今回の転職活動でもトラウマになってしまっているものがありました。
それは
これまでの挫折経験を教えてください
苦労して乗り越えた経験は何ですか?
という類の質問でした。
彼女は大学時代のチアリーディングでも、新卒で入社した今の厳しい営業職においても、周囲から評価されるような一定以上の結果を出し続けてきましたが、本人にその理由を聞いてみると、
わたし、割と器用なタイプなので比較的なんでもうまくできてしまうんです…

でも、周囲の人よりも何か工夫したりしたんじゃないですかね?
チアの時は周りは初心者ばかりだったし、今の営業でも、同期の子は要領が悪い子が多いんですよね…
いくら聞いても、本人の回答は「大したことはしていない」の一点張り。
彼女は、壁があって苦労して乗り越えてきた経験もない、辛いと思ったことがない、と主張し続けました。
「苦労」「努力」はあくまで本人の主観
しかし、本当にそうなのでしょうか?苦労なく、努力もせずにチアでリーダーをやったり、ゴリゴリの営業会社で結果を出せるでしょうか?
そこで、ぼくは彼女にこんな質問を投げかけました。

チアの時はどのくらい練習してたんですか?
1日6時間くらいです

普通はどのくらい練習するもんなのですか?例えば、他の人とか…
多くて、大体2〜3時間くらいですかね。私の場合、練習といっても実際に体を動かしているのは3〜4時間くらいで、その他は作業していました。

作業?
はい、チームメンバーの動きを確認したり、他のチームがどんな演技をするのかを見たりしてました。

そこまでするのが普通なのでしょうか…?なぜそれをやろうと思ったのですか?
部長から、経験者ということでリーダーに指名してもらったので、何とか結果を出したかったんです。それまでの人生でキャプテンとかリーダーを務めたことがなかったので、初めて期待されたような気がして無我夢中でした

なるほど…今の営業職でもグループのリーダーとか任されたんですか?
今の会社は年功序列的な風土もありますし先輩も多いので、そのようなポジションではありませんでした。でも、他の同期がみんなOJTがついているのに対し、私だけすぐに1人立ちさせてもらいました。

そうなんですか…?それはなぜですかね?
部長が、「Mさん(彼女)は覚えも早いし、行動量もあるから1人でやってみろ」と言ってくれたんです。同期で1人だけ1人立ちして営業に行かせてもらったので、何とか見える成果を出そうとしました。

部長はなんでMさんだけを1人立ちさせたんですかね?
うーん・・実感はないのですが、部長が言うには先回りして業務ができるから、だそうです。

新卒だと、目の前のことに追われて重要なことが後回しになったり、わからないことがわからない状態の人が多いですが、常に先回りして行動できるのであれば、知識不足のものは事前に先輩に聞けますもんね。
確かにそうかもしれません・・・同期の子はクライアントからの依頼の回答が遅くてクレームになってるんですけど、本人はそうなること自体、想定していないんだと思います。
いつスイッチが入るか?スイッチが入った上でどんなことができるか?
彼女の話を深掘りしていくと、
辛くて努力した経験がないのではなく、「辛い」「努力している」と実感しない状態になることがあるのではないか?という仮説が生まれてきました。
それはどんな時か?というと、誰かに期待をかけられた時です。
チアの時は部長からチーム全体を任せられた時、現職でも部長から早期にOJTを外され1人立ちした時に、本人の自覚がないですが、人の数倍の作業量や試行錯誤を行なっています。
「期待に応えたい」と「裏切りたくない」そのときに一心不乱に頑張れる。彼女は周囲からの期待を感じたときに、一心不乱に努力をしていました。
なぜ、期待を感じると頑張れるか?その理由が差別化になる
とはいっても、世の中の多くの人は期待をされたら、それなりに頑張れるでしょう。そこで論点となるのは、どのくらい本当の意味で頑張れるか?(期待をかけられることに対し、どれだけのモチベーションの源泉があるか?)です。
これを知るためには幼少期の原体験から深掘りしていく必要があります。
彼女に

Mさんが頑張っている時の作業力や行動量は異常だと思うんですが、なぜ期待されると人より努力できるようになったんですかね?小さい頃にトラウマがあったとかあります?
と尋ねました。
すると、このような答えが返ってきました。
うちの家庭は優秀な兄がいて、常に親族の注目でした。私はそれに対して、嫉妬心を抱くようなタイプでもなく、周りと同じように兄に尊敬の念を持ってました。 別に、負けたくないとか、自分も注目されたいとか思ったりすることは全くなかったです。

確かにお話ししている感じでは、そのようなタイプでなさそうですもんね笑
はい・・・ただ・・・私が小学校高学年の時に、習っていたダンスの大事な発表会がありました。1ヶ月後に迫る中、それなりに練習を頑張っていたのですが、そんな時に親戚の集まりがありました。

ほう・・・中々、面白そうなお話ですね。
そこで、よく面倒を見てくれていた叔父さんが私に「○○ちゃんは実はすごいダンスが上手いんだよね。叔父さんも発表会見にいくね」と言ってくれて、本当に応援に来てくれたんです。いつも兄の話ばかりだったで、少しでも私のことについて考えてくれていることがその時はとても嬉しかったんです。

いつも会話の中心がお兄さんだったのに、その時はMさんだったんですね!
叔父さんがきてくれるというので練習も頑張りました。発表会当日の調子も良く、入賞もできたんです!

なるほど、期待をかけてくれて頑張れた成功体験が今の人生においても通じているんですね。
実はこれは成功体験ではないんです・・・。実は後日談がありまして、発表会の入賞を受賞した後に、正月に親戚で集まった際にも、「〇〇ちゃんダンス上手なんだね〜」という風に色々な人が褒めてくれたんです。控えめな性格の私も、さすがにその時は少し得意げになりました。
でも、みんなが盛りがっている中、叔父さんが「〇〇ちゃんなら優勝だと思ったのになぁ』とボソッと言って少し悲しそうな顔をしているように見えたんです。もしかしたら勘違いかもしれませんが、私にはそう見えました。その時に私は、自分や周囲が満足する結果ではなく、期待をかけてくれた人本人が満足してくれる結果を出さないといけないのだと思ったんです。
スイッチが入った時にどんな力を発揮するか?が自分の強み
Mさんの場合、幼少期の原体験から「人の期待に応えたい、超えたい」ということがモチベーションの源泉であることが分かりました。これを知ることは自分の人生において、とても重要なことですが、ビジネスをする上ではこれだけでは十分ではありません。
やる気モードになった時に、どんな行動や工夫をするのか?が重要です。つまり、どんなスキル、強みはあるのか?を理解してなくてはいけません。
面接などで、「頑張った仕事の内容について教えてください」「その仕事をするにあたり、どんな工夫をしましたか?」というような質問は、スキルや強みを知りたいという質問です。
彼女にも同様の質問を投げかけて見ました。
うーん、やれることは全部やるくらいで特にこれといってないですね。今の上司からは「先回りができる」と言われるのですが、仕事って普通そういうものだと思うので、特別自分だけが出来ることだという実感はないですね。

チアの時も、「先回り出来る」と監督さんなどに言われたんですか?
うーん、やれることは全部やるくらいで特にこれといってないですね。今の上司からは「先回りができる」と言われるのですが、仕事って普通そういうものだと思うので、特別自分だけが出来ることだという実感はないですね。

チアの時も、「先回り出来る」と監督さんなどに言われたんですか?
チアの時は言われたことがなく、社会人になって初めて言われたのでびっくりしました。でも、チアの時に部長に「もっと個人練習していいぞ(笑)」と何回も言われました。

「先回り」とは程遠い評価ポイントですね。具体的にはどういうことなのでしょうか?
私自身のレベルアップもする必要があったのですが、それよりもメンバーが熱意を持って日々練習に取り組んでくれたり、周囲とのコンビネーションが大事でした。ですので、そのような働きかけをしていたのですが、部長からは自分自身もレベルアップに集中しろ、と言われることが多かったです。

部長からしたら、一番上手いMさんがレベルアップをすることで周囲への刺激になるのだと思っていたかもしれませんね。なぜそのような行動をしなかったのでしょうか?
チアの部長は技術指導は上手だったのですが、好き嫌いがあったり、下手な人は勝手に練習しろ的な考えで、ついてこれない人が多かったんです。名門校ではなく、初心者の集まりの集団だったので、そのやり方では結果もついてこないと思い、私は周囲がモチベーションの持続するような働きかけをする必要があるのだと思ったのです。

常にそういう役回りなのではなく、その時の組織コンディションを考えて行動したのですね。周囲の働きかけをするに当たって、どのような行動をして、なぜそれをしたのかを教えて頂けますか?
残念ながら高い目標を掲げて入部してきた人ばかりではなかったので、個人個人によってアプローチ方法を変えてました。「優勝しよう」といっても、必ず響かないメンバーがいる環境でしたので、徹底的に1人1人のことを知ろうと努めました。例えば、練習帰りに一緒に帰ってその人の過去の話を聞いて、チアを始めた理由や昔やっていたスポーツやそ辞めた理由などを聞きました。その話をもとに、ポジションを変えたりしたこともありました。

それはすごいですね。会社でいうと管理職がやるような仕事ですね。
普段の練習でも、あまり自分が前に出すぎると、その実力差の大きさに折れてしまう子がいたりするので、一緒に練習する子のレベルに合わせてたりしました。

でも、今の会社では年次が低いこともあり、周囲をモチベートするようなことは行なっていないですよね?
そうですね、今の会社では自分が誰かに教えたりすることはあり得ません。逆に、うちの部は年齢層が高く、在籍年数も長い人ばかりですので、私みたいな新人が来ることが珍しかったんです。みんな同じ環境で同じ仕事をしている人ばかりだったので、だからこそ、自分が頑張れば新鮮な空気が流れるのではないかと思いました。
Mさんは決して典型的なリーダータイプではないものの、自分が属する組織をよく観察し、自分の振る舞いを変えて組織を活性化していることがわかりました。
チアリーディング時代と、今の会社での役割は全く異なるものの、自分自身で組織に必要な役割を考え、演じている点は共通しています。
組織の中でのあるべき自分自身の姿を知るためには、周囲への適切な洞察力がなければできません。チアの時はメンバーを1人1人を理解する努力をし、今の会社では社会人になったばかりであるにも関わらず、組織長の視点で物事を考え、ベテランの組織だからこそ起こっている組織課題を特定し、解決に取り組んでいます。
新卒であれば、本来は目の前の仕事に追われたり、営業マンであれば自分の目標にだけ集中するような行動になりがちですが、Mさんは常に組織を主語にして日々行動することができています。
その姿勢だけでなく、普段から常に組織視点で物事を考え、周囲や状況を洞察、分析していることはどんな環境にいっても評価されるスタンスであり、スキルでもあります。
自身のコアとなる価値観や思想を知ることが大事
転職活動を経て、自分自身のことを深く思考するまでは
これまでの人生に面接で話せるようなことは特にありませんでした
と、逆境を乗り越えた経験もなければ、特別な強みもないと考えていたMさん。
しかし、色々な出来事を掘り下げていくと全ての行動や考えの根底にあるものは
「相手の期待に応えたい、裏切りたくない」
というものでした。
実は転職理由も、全てこの価値観に集約されます。
今の営業では、お客さんに対して自社の製品を売り込み、納品するまでが仕事ですが、納品後に、自社の製品によってどのくらい作業効率があったか?までは追跡しない営業スタイルでした。
しかし、お客さんからの「発注」というのは、その製品や自社に対する大きな”期待”です。
営業マンとして、その期待に対しての結果を知らない、もしくは成果にコミットしないような仕事は、Mさんの人生観から逸れることになります。
人と接することが得意なMさんは営業が好きで自信もあるのですが、自分が提案した、もしくは販売した商品によって相手にどれくらいの利益をもたらすか?までにコミットするような仕事がしたい、というのが転職したい理由であることが自己分析からわかりました。
今回のケースで重要なことは、自分が無意識で行っている行動や考え方に対して、なぜそうしたか?なぜそう思ったか?を自分自身で考え抜くことで、大切にしている価値観や発揮している力が見えてくるというものです。
面接のテクニックなどではなく、転職活動という良い機会を利用して、自分が人生を通してどんなことをしたいのか?どんな行動を取れるのか?を理解することは今後の人生においてもとても重要なことだと思います。
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